高校三年ともなると、進路だの就職だの何かと忙しい・・・はずなのだが
だが、俺は何になりたいのか、どうしたいのか未だに分からないままだった。
そうして、何一つ解決しないまま次の季節を迎えてしまった・・・。

〜夏〜

「うぅぁー、あちぃー・・・」
さすが夏だ。俺に開口一番、もっともベタな台詞を吐かせてくれる。
「だめだよ、もっとシャキっとしなきゃ〜」
「そうは言ってもだなぁ・・・・」
ふと唯の方を見ると、汗一つかいてない姿が・・・・。
「お前は・・・・代謝が悪すぎませんかってんだ」
「え?何か言った?」
「いや、何でもねぇ・・・あちぃ」
そんな心配を他所に、唯はスタスタと歩いていく。
「何でお前は、そんなに元気なんだよ?」
「ん?だって〜、今日は海に行くんだよ?そりゃぁ元気になるってもんですよ♪」
「まぁ・・・それはそうなんだが・・・」
唯の言葉通り、今日は海に行く約束をしている。
夏休みに入った最初の日曜日、海に行くのだと俊彦が言い出し、唯がそれに賛同。
俺は・・・・保護者代わりだ、・・・・きっと、・・・・多分。
「はぁ・・・・まぁ、いいか。どっちでも・・・・あちぃ」
鼻歌交じりの唯の姿を見ながら、唯が元気ならいいかと思い始めたとき・・・
「おぉーいっ!!二人ともコッチだ、コッチ!!」
そう、俊彦の声だ・・・・相変わらずよく響く・・・・さすがチャンピオン。
「ったく!遅ぇじゃねーか、待ちくたびれたぜ?」
「待ちくたびれたって・・・まだ電車がくる15分前じゃねぇーか!」
どんな女でも、約束の15分前に来て怒りはしないだろう。
「そだよぉ〜、まだまだ余裕じゃんっ♪」
ふむ、中々ナイスだぞ。褒めてしんぜようぞ、唯姫。
「否ぁっ!!!」
「・・・・いや、今の時代にその否定語はどうかと思うぞ、うん」
さっきまで殿みたいな口ぶりで何かを思ってたのは内緒だけどな。
「ねぇ、修ちゃん。『いなっ』って何〜?」
「秋に収穫できる、日本人の主食だ」
「それは『稲』だろうが!・・・とにかく!こういう日はノリが肝心なんだよ、分かったか!?」
おぉ・・・・俊彦がツッコミ入れた、奇跡だ。
「んぅ〜、何で俊くんが怒ってるの?」
「おおお、怒ってなんていませんっ!」
「それはな、唯・・・・ちょっと耳貸せ・・・・」
「だぁー、言わなくていいんだよ!テメェ、ガチで殴り飛ばすぞっ!?」
さすがにそれは勘弁だ、海に行く前にKOなんてありえん。
「わ、わかったよ!前みたいなのは勘弁だからな・・・」
「むぅー、唯だけわかんないよぉ〜!!」
一人だけ状況は理解できてない唯は、そうやって拗ねてしまった。
「まぁそう拗ねるなって。今度また教えてやるから♪」
そう言うと、唯はこちらにクルっと振り向き、期待に満ちた目で・・・
「ホントにっ!?約束だよっ、絶対だよっっ!!?」
と言うほどにコロッと豹変。
「おいコラ、全部聞こえてんぞ?」
「ん?何のことだね、俊彦君よ?」
「て、てめぇ―――――――」
その時だった、後ろの方で電車の音がし始めたのは。
「あっ、修ちゃん、俊くん!電車が来たよぉ〜♪」
「そうみたいだな・・・・、オラ行くぞ俊彦!」
「んぐぅ・・・仕方ない、今は海を楽しむことだけを考えよう・・・」
そうして、俺たちは海に向かったのだった。

1時間後・・・・・・

「ついたぁ〜♪」
「あちぃ・・・・」
「オラ、シャキっとしねぇか修。今から海なんだから涼しくなんぞ?」
砂浜は風が通っているのだが、やはり暑いものは暑い。
「じゃぁ、唯着替えてくるねっ♪」
「俺たちも着替えるぞ、いざ行かん!」
「なぁ、俊彦?お前の中で歴史がマイブーム?」
「・・・・・・織田信長」
「・・・・・・また随分な名前が出てきたな、オイ」
こいつはホントにある意味、天下統一しかねんと思いつつ、俺たちは更衣室に向かった。

「なぁ、修?」
突然、俊彦が問いかけてきた。
「なんだ?」
「お前、雪岡さんのことどう思ってんだ?」
思いもよらない質問だった。
「・・・・・・はぁ!?」
「いや、だからな。お前は雪岡さんのこと好きじゃないのか、ってことだよ」
「何をいきなり聞いてくるんだ、おのれは。唯は幼馴染だよ、お・さ・な・な・じ・み」
こう言ってる時も正直迷っていた。
・・・・あの再会から半年、唯は俺のことが好きだ・・・・多分。
言葉の端々を見ればわかる。
俺もそこまで鈍感じゃない・・・・・、でも・・・・
「ふぅーん、でも雪岡さんは間違いなくお前のこと好きだろ?」
「・・・・・・・・・」
まさかここで事実を突きつけられるとは思ってなかった。
思わず俺は黙り込んでしまった。
「・・・・・はぁ。分かってるんなら、まだいいか」
「・・・・嫌いじゃないさ」
「は?」
「女として好きかはまだわからない。けど、嫌いじゃないさ・・・」
これが今の精一杯の言葉だった。
これが愛情表現かはわからないけど、唯のことは嫌いじゃない。
あの笑顔・・・・嫌いな訳無いじゃないか・・・。
「それにしても、雪岡さん、どんな水着なのかなぁー?」
「・・・・・・ナンダッテ?」
あれ?今さ、ものすごい真剣な話してなかったっけ?
「白だよな、絶対白が似合うっ!」
白?何が白なんだ?お前の頭の中・・・・・いやいや
「いや、あの・・・ですね?」
「黒なんて邪道だぁーーーーーーー!」
「・・・・・おぉーい」
あぁ・・・・自分の世界にお逝きになられたよ。
「はぁ・・・・先に行ってるからな!」
「邪道DAーーーーーーーー!」
俺は、俊彦を置いて先に更衣室から出ることにした。

「うぉっ、まぶし・・・・」
さすがに薄暗い更衣室から出ると、真夏の光は目に染みる。
「さて・・・唯は、と・・・・」
探そうと歩き始めたその時だった、小さな言い争いの声を聞いたのは・・・。
「ちょ、ちょっとやめてよね!」
「ん?」
「いいじゃんよ、俺達と茶ぁ飲むくらいさー」
「あうう〜、お茶はぁ・・・・・」
あぁ、夏恒例の「お馬鹿さんのお馬鹿さんによるお馬鹿さんの為の」ナンパに遭遇しちゃったよ。
「ほらほら、こっちの子はオッケーみたいだよぉ?」
「あうあうあぁ〜・・・・」
激しく首を振る女の子。
「どこがよっ!すごい首振って拒んでんじゃない!!」
「いや、これはきっと愛情の裏返しさっ」
あら、ナンパの一人はただの勘違い野郎だったのね・・・・。
「あんた・・・相当な勘違い野郎なのね・・・・」
ナイスだ君!今のツッコミはレベルが高いぞっ!
「こくこくこくっ」
おお、もう一人の女の子が激しく賛同している・・・・効果は抜群だ!
「なっ、俺が勘違い野郎・・・・・誰に口きいてんのかわかってんのか!?」
「あぁーあ、知らないわよアンタみたいな馬鹿は!」
「くっ、このアマぁ!いい気になりやがって・・・・っ!」
「あー、もうやだやだ!あんたみたいな男尊女卑の典型的なキチ○イはっ!」
・・・・・・・それはちょっと言い過ぎでないかい?
ていうか女の子が「キチ○イ」って・・・・・誰が教えたのそんな言葉。
ほら、周りのお客さんもちょっと引いてらっしゃるじゃないか。
そんな男としての悲しみに浸ってる時だった。
「テメェ、いい加減にしとけよぉっ!!」
男は拳を振り上げて女の子に殴りかかった!
「こりゃいかんぞ!!?」
俺は右足に力を込めて、砂浜の砂を蹴り走り出した。
男の拳を受け止めるように両手で腕を交差させながら、四人の間に割って入った。
「ぐっ・・・・何だテメェは!!?」
「人間」
「こいつ馬鹿じゃねぇのか?」
俺はもう一人の方に振り向き言ってやった。
「馬鹿はテメェらだろうが、タコ!成功しねぇナンパなんてしてんじゃねぇーよ」
うーん、チョー気持ちいいっ♪
ていうか俺カッコいいよな、今輝いてるよなっ♪
「んだとぉ?ふざけてんじゃねぇぞゴラァ!!」
後ろの奴が殴りかかって来た・・・・よけねぇと・・・・。
やべぇ、今、俺の両腕塞がってるよ・・・・よけるの無理じゃんか!!!
そんなことを考えてるうちにも男の拳は迫ってきている。
どうしようか悩んでるその時!
「おもしろいことやってんなぁ、ブラザー♪」
俊彦だ。
声がするほうを振り向くと、男の拳を片腕で掴んでいた・・・・さすが。
「誰がブラザーだ、それよりそいつ任せていいか?」
言うまでもなかった。俊彦は既にこちらを向いていなかった。
「何の為に出てきたと思ってんだよ」
「唯の水着を拝みにだろう?」
「く・・・悔しいけど半分正解じゃ・・・ねぇかよぉっ!」
「誰に問題出してん・・・だコラァーっ!」
その言葉を皮切りに殴り合いが始まった。
しかし言うまでもなく俊彦の相手になるような相手でもなく、すぐにノビてしまった。
俺もほうも、俊彦の日々のパンチのおかげ・・・・なのか、相手の攻撃は驚くほどスローに見えていた。
「ぐっ・・・・くそっ・・・!」
「おいおい、まだやるのか?」
「い・・・イテェ・・・ちくしょうっ・・!」
「お、根性あるな?よしよし、それでこそ男だっ」
いや、俊彦よ・・・・・お前なんで息切れてないのよ?
修くんはもうしんどいんですけどぉ??
「ちっ!・・・・あぁーあ、やめりゃいいんだろ、やめりゃ!」
どうやら観念したようだ。
男達は振り向きながら周りの奴らに睨みをきかせ、歩いていった。

「はぁー、疲れた」
俺はおもむろに砂浜に寝転んだ。
「それにしてもよぉ修、何でお前はケンカなんてしてたんだ?」
「ん?あぁ、女の子がナンパされてて殴られそうになってたんでなー。」
そのとき俺の目前は暗く変色した。
「あ、あのぉー・・・・」
「んぁ?何だ?」
「・・・あ・・・ありが・・とう・・ござい・・ます」
よく見ると、さっきの女の子達だった。
一人は元気そうな女の子、もう一人はその後ろに少し隠れながら喋る女の子。
ショートヘアーにロングヘアー・・・・・・まるっきり正反対じゃないか。
「・・・・おぉ、俊彦。この子達がナンパにあってたんだ」
俺は寝転がりながら女の子達を指差してそう言った。
「ほぉ・・・・・なるほど、ナンパを受けるわけで」
俺も、最初は顔まできちんと見てはいなかったのだが、今見てみると二人とも整った顔立ちをしている。
・・・・・・あれ?
・・・・・・・・ショートヘアーの子・・・・どっかで見たな?
・・・・・・・・・・・どこだったか・・・・・・ぬーーーぅ。
「あれ?・・・ひょっとして修にぃ・・・?」
「ん?何で俺の名前を知ってるんだ?」
「時野・・・・修だよね?」
「いかにも、時野修だけど・・・・・」
・・・・・・あれ?
この子も俺のことを知ってる?
「ホントに!?ホントに修にぃ!?」
「そうだけど、お前は誰だ!」
「んもぉ、愛だよぉ、夏樹愛(なつきあい)!」
なつき・・・・あい、おつき・・・・あい・・・いや、ちがうちがう。
「な・・つき・・・・あ・・・・あぁーーー!!」
「思い出したっ??」
「おー、おー、一つ下のバスケ少女か!?」
「そうそう・・・・って誰がバスケ少女よ!」
「いや、バスケしてるとこしか見たことなかったし」
「・・・・・おーい、修くーん」
「なんだ、俊彦?」
「とりあえず、俺にわかりやすく説明してくれ・・・・」
「こくこくこくっ!」
もう一人の女の子は、いつの間にか俊彦の後ろのほうに移動していた。

この女の子の名前は夏樹愛。
俺が小学5年のときにこいつの存在を知った。
何せ、俺が帰ろうとしていると学校のグラウンドでバスケばかりしていたのだから。
それから中学に上がった後も「一つ下にバスケがうまい女子がいる」と、一時期噂になったくらいだ。
それだけならよかったのだが、中2のときにクラスの馬鹿が
「愛ちゃんに告白してくる!!」
などと、うつつ抜かしてたものだから数人で冷やかしにいったのだが・・・
「ごめんなさい!・・・私、好きな人がいるの」
「えっ・・・・・それって誰なの?」
「二年六組の・・・・・・時野先輩・・・」
こんなやりとりがあったものだからさぁ、大変。ドジョウが出てきてこんにちは・・・じゃなくて!
ていうかその場に俺がいたからもっと大変。
そして、後ろの奴らに押し出されて死ぬほど大変だった。
何とかその場は収拾をつけたが、それからと言うもの、「修にぃ」と呼ぶようになってしまった。
俺は高校に進学し、夏樹も他所の高校に進学したと聞いていた。

「ってな訳だ・・・。オッケー?」
「つまり、お前は夏樹さんの兄貴分だったって訳だな?」
「まぁ、それに近いもんかな?」
ちょっと違う気がするんだがな・・・・。
「それとな・・・・君は誰だい?」
さっきから俊彦の背中にくっついて離れないロングヘアーの女の子だ。
「ぇ・・・・・あ、あの・・・・その・・・・ご、ごめんなさいっ!」
「いや、謝られても・・・・」
俊彦は困りながらそう答えた。
「えっとね、この子は椿姫乃(つばきひめの)。私の友達なんだ♪」
「えと・・・あの・・・・つ、椿姫乃です・・・・」
ふむ、姫乃ちゃんか・・・。
「や、自己紹介はいいから、俺の背中から・・・・」
「えっ!?あっ、その、あの・・・・ごめんなさぃ〜!」
そう謝罪の言葉を述べると、姫乃ちゃんは夏樹の後ろへと隠れてしまった。
「あははは、恥ずかしがりやなんだよ♪」

そうして話が一段落ついた頃・・・
「修ちゃ〜ん♪」
「ん・・・・・?唯か?」
俺が振り向いて見た光景は・・・今でも忘れられない。
白い砂浜が反射させた光が、白い肌をより一層白く輝かせていた。
「・・・・・・・・・。」
「ん、どうしたの修ちゃん?」
「え、あ、いや、なんでもないぞ?」
危ない危ない、思わず言葉を失ってしまった。
しかし・・・・・それほどまでに・・・・
「わぁあ・・・・ねぇねぇ、修にぃ!この人誰っ?」
「あ?・・・あぁ、唯って言うんだ。」
「へぇ〜、綺麗だなぁ・・・・。あっ、修にぃの彼女??」
「ばっ、馬鹿そんな訳ねぇだろっ!」
いきなり何て事を聞いてきやがりますかこの子は!
「およ?修ちゃん、この子だぁれ?」
「あぁ、こいつは愛。夏樹愛って言うんだよ、俺の後輩。」
「おぉ〜、可愛いねぇ。愛ちゃんっていうんだ?」
「はいっ!あ・・あの、唯ねぇって呼んでもいいですか?」
「別にいいけど・・・・?」
「やったぁ!ほらほら、姫乃!」
「あ、あの・・・・椿姫乃って言います・・・・わ、私も・・その、呼んじゃっていいですか?」
「いいよぉ♪お姉さんにまっかせなさぁ〜い♪」
お前に任せたら大変なことになるだろうがよ・・・とは口が割けても言えない。
「唯ねぇ!海に入ろうよ!」
「うんっ、行こう行こう♪」
「ほら、修にぃもーっ!!」
「・・・・・はいよぉ」
こうして、俺達の夏は過ぎて行った・・・・・。
・・・・・俊彦が唯の水着姿を見て、お逝きになられたのは言うまでもない。

「黒は邪道だぁぁああああぁあ!!!」

夏に再び相見えた、小さな「愛」の欠片・・・。
やがてその欠片はほころび始め、転がっていく・・・。
けれど傍に隠れて見えなかった小さな「愛」は、大きな形となって表れ始める。
それはとても暖かく、そして優しい光・・・。


降り積もる雪は命の輝き 〜一年〜 「夏」終了



えー、とりあえず「春」でも告知してある通り新キャラ出てきてますねぇ♪
ていうか長すぎて途中からだらけてきてる文章・・・(苦笑
まぁ、もともとの構想で夏は長いって分かってた筈なんだけどねぇー。
体力と文才が全然ついてこないって感じですよ、もう!
まぁ、次は「秋」ですか・・・・・短いかもなぁ。
ていうか今回の最後の言葉、ちょっとカッコよくない?・・・・よくない・・そうですか(涙
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